「死の棘」 島尾敏雄:著 新潮文庫:刊
いやぁ、辛い本でした。内容もさる事ながら、字面が。
改行キーの打ち忘れ??
と思うほど、ページが字で埋め尽くされています。ぎっしりみっしり、です。
ちょっと気を抜くと、今どこを読んでいるのか見失ってしまいます(^^;
昔の本なので仕方ないと思いますが、最近の本がいかに紙面を贅沢に使っているか、読者フレンドリーか。
内容はその字面から連想される通り、陰鬱です。狂っていく妻との毎日を描いているのですが、自分にもその気分が乗り移ってきそうです。それほど巧い書き手と言えるのでしょう。
ある日、夫(作者)が外泊した愛人宅から、 家に戻ると妻が狂っていた!
妻は夫のこれまでの不貞をとがめ、質問攻めに。
これまで女とどこに行ったのか、何枚写真を撮ったのか、 何色の下着をあげたのか、どんなプレゼントをあげたのか、 どんな手紙を渡したのか、ありとあらゆることを追求し始める妻。 それは終わりのない無間地獄。
本当に内容的には、妻が何かのきっかけで夫を質問攻めにする、 夫が答えられない、それでも追及する、 攻撃に耐えかねて夫が自分も狂ったように自分を攻撃する、 妻の発作が収まる。ということが延々と繰り返し書かれています。
最後は精神病棟に2人で入院するところで終わるのですが、 明るい未来が待っているのかどうかは示唆されていなかったと思い ます。
これは私小説らしいですが、二人には小さな子どもが2人いて、 その子らが不憫でなりませんでした…。
と思ったら、息子さんは今はカメラマンとして活躍しており、その娘(孫)は漫画家のしまおまほさんのようです。
大きなお世話ですが、立派になって良かったです。
「石に泳ぐ魚」 柳美里:著 新潮社:刊
続いて読んだのもかなり辛い本でした。著者のデビュー作でもあり、自伝的小説でもあるこの本の出版に際しては、裁判で争われたので内容は何となく理解していました。
主人公の友人役として描かれている女性の顔に痣があり、そのことがプライバシーの侵害にあたるとして、出版差し止めが出ました。文庫本は改訂版です。
改訂版では痣のことははっきり記述されていません。もし、なんの予備知識もなかったら、なんの事か分からないのではないかと思いました。
こちらも全体に陰鬱な雰囲気が漂う小説でした。
図らずもどちらも私小説でした。小説家ともなるとそんなディープな人生を生きないといけないのでしょうか。それともそういう人生を生きたからこそ作家になったのでしょうか…。