食べることは、たぶん人を救う
最近読んで「これは好きだな」と思った2冊。
どちらも北森鴻作品ですが、同じ作家とは思えないくらい雰囲気が違いました。
「メイン・ディッシュ」 北森鴻:著 集英社:刊
タイトルだけ見ると料理本みたいですが、れっきとしたミステリーです。
しかも、いわゆる「短編連作」。
一話ごとにちゃんと完結しているのに、読み進めるほど点と点がつながって、大きな物語になっていく。この構成が本当にうまい。
主人公は小劇団の看板女優・紅林ゆりえ。
ある雪の日、彼女が"拾ってきた"謎の男・三津池修、通称ミケさんと一緒に暮らしています。
ミケさんは過去を語らない。
ゆりえも無理には聞かない。
でも、劇団員たちはなぜかゆりえの部屋へ集まってくる。
目的はもちろん……
ミケさんの手料理です。
これがもう、とにかくおいしそう。
料理の描写が細かくて、夜に読むと完全に飯テロです。
劇団の周囲で起きる小さな事件を、ミケさんが料理をしながら鮮やかに解き明かしていく展開も心地いい。
そして後半。
少しずつ明かされるミケさんの過去。
「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちる瞬間が何度もありました。
短編ごとの仕掛けにもきっちり騙されましたし、最後までとても満足度の高い一冊でした。
読後感も比較的やさしく、「いい本を読んだな」と思える作品です。
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「共犯マジック」 北森鴻:著 徳間文庫:刊
勢いそのままに、続いてこちらも読了。
こちらも短編集ですが、『メイン・ディッシュ』とはかなり印象が違います。
物語の中心にあるのは、一冊の謎めいた本――「フォーチュンブック」。
発禁処分となったその本を、買った人、買えなかった人、それぞれの人生が描かれていきます。
年代も大きく飛ぶので、
「あれ、今は何年?」
と少し迷う場面もありました。
序盤は安保闘争などが登場し、正直ちょっと入り込みにくかったのですが、
時代が進むにつれ、ホテルニュージャパン火災や三億円事件といった実際の出来事も絡み始め、一気に物語へ引き込まれました。
「フォーチュンブック」という一冊の本が、何十年もの時間を越えて人々の運命を静かにつないでいく。
スケールは大きいのですが、全体の空気はかなり重め。
希望よりも、人生の切なさややるせなさが印象に残る作品でした。
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北森鴻という作家
今回2冊読んで改めて感じたのは、
この人は本当に引き出しが多い作家だったんだな、ということ。
民俗学を題材にした作品もあれば、本格ミステリーもあり、人情ものもある。
作品ごとにまるで別人が書いているようなのに、
どれも「北森鴻らしさ」があるのが不思議です。
2009年に亡くなられているので、新作を読むことはもうできません。
それだけが、本当に残念です。