「Killers」(上)(下)
堂場瞬一:著 講談社:刊
★★★
2015年刊行と、ちょっと古い本ですが、2020年の東京オリンピックを前にタイムリーなストーリーではありました。
2020年のオリンピックを前に再開発が進む渋谷。古いアパートの一室で殺されていた老人・長野保。額には十時の傷跡。それはちょうど1964年の東京オリンピックを、前に渋谷で始まった連続殺人事件の被害者と同じ傷跡だった。
果たして偶然なのか?!
過去と現在が交互に語られるストーリー。序盤から犯人は判明します。その犯人と思われる人物が冒頭で遺体となって発見されるのです。
上巻は主に過去の時間軸が中心で進んで行きます。はっきり言って、殺人をする理由についてはさっぱり理解というか、共感はできません。ちょっと失敗したかなと思ったのですが、我慢して(失礼)下巻を読むと、俄然面白くなってきました。
殺人の動機に関しては相変わらず理解不能ですが、「血」の繋がりや捜査の行方などは興味深く読みました。
広い東京で(渋谷に限定されてはいますが)人間関係が少し偶然すぎるきらいはありますが、そうだったのか〜と。気が付かなった!と膝打ち。
ラストは余韻というか、続きを感じさせる終わりでした。まあ、刊行から3年経っているので続編はないと思いますが。
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「絶唱」 湊かなえ:著 新潮文庫:刊
★★★★
阪神・淡路大震災とトンガ。
一見全く繋がりのない2つのことが有機的に絡み合っている短篇集です。
共通するのは登場人物がみんな秘密、心の痛みを抱えていて、それがトンガで昇華していくとこでしょうか。またトンガ在住の日本人・尚美さんがキーマンとして4人の主人公たちと関わっています。
「楽園」
双子の雪絵と毬絵。震災で生き残った毬絵がトンガで本当の自分を取り戻すお話し。
お母さんが自分の不注意で娘にやけどを負わせたのに、震災のせいにしてしまうなんて…。酷すぎます😭😭
「約束」
「楽園」にちらっと登場した松本先生の話。震災の話を除くと、時系列的には1番昔の話。
モラハラの彼氏から逃れるためにトンガにやってきた主人公。そしてついにその彼氏がトンガまでやって来ました。果たして決別できるのか?!
「太陽」
「楽園」に登場した母子、杏子と花恋の物語。「楽園」ではネグレクト気味のシングルマザーと思われていた杏子がトンガに来た理由とは…。
ネグレクトかと思われた杏子も実はちゃんと考えていることが分かりました。そして、トンガに来た理由に涙😭
「絶唱」
著者を思わせる主人公。共通して登場する尚美さんに宛てた手紙形式。尚美さんは何故かわからないけど、死んでしまったよう😭
主人公・千晴は大学生の時に阪神大震災に合い、その時に親友を亡くします。それにまつわる千晴の複雑な思い。そのことが、千晴に震災を経験したことを他人に話すことを拒ませてきました。
尚美さんは、作家になった千晴に震災の経験を書くなら、紹介したい人たちがいると、前の3つの物語に登場した主人公たちの名前を挙げます。もう震災のことを語ってもいいのではないかと。
そういうことだったのか!と膝を打ちました。
この千晴が作家・湊かなえのことなのか分かりませんが、プロフィールを見てもだぶるところがあります。
阪神大震災から20年以上経ち、ようやく吐き出すことのできた思い。
そんな風に感じました。